晴藤

王都妖奇譚の二次創作小説です。将之が好き。腐婆です。お相手は晴明がメインのはず。

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七十五日の瓢箪と駒 拾四

七十五日の瓢箪と駒

どうにか感情が落ち着いた晴明は、次の要望を思案する。
けれどそれは、嫉妬から発生しているもので、将之が晴明の機嫌を伺っているこの状況で言い出すのは、かなり卑怯だと思う。
それでも、言わなくては。今言わなくては、自分の中で蟠りが残ってしまうことも分かる。
自分を『ちゃんと好き』だと言った将之の目を見て、真剣に伝えなければ。
「私の好きは、私が将之を想う好きは、将之がせっかく消してくれた、噂と同じ意味の好きだよ。接吻けをしたい好きだ。将之は私にも、接吻けが出来るのか?」
言われて、将之が一気に赤くなった。ボン、と音が出そうなくらいの勢いで、首まで真っ赤だ。
「え?えぇっ?!」
自分の顔を両手で押さえて、慌てている。
「で、出来るから!ちゃんと好きだから、ちょっと、待て!」

一気に熱くなった自分の顔に、将之は自分でびっくりした。
成彬に言われた時は、驚いたけれど、赤くはならなかった。
むしろ成彬へ迷惑が掛かるのを心配をしたくらいだ。
それが今。自分でもビックリするくらいの赤面で。
心の臓も、バクバク煩いくらい鳴っている。
つまり、これが『ちゃんと』好きってことなのだ、とようやく自覚する。
成彬とした時は、将之にとってはもっと違う処に目的があった。
要はその目的が、今考えてみれば、晴明ってことになるのだけれど。
それに、その時はその想いすら、全く自覚していなかった。
だから別に、驚いただけで、その行為自体を重要視していなかったけれど。
これ、晴明に言った方がいいのかな?
いいような気がするけど、今言うことではないということくらいは、将之にだって分かる。
晴明は、いつから自分を好きだと自覚していたのだろう。
見た時点で自覚していたのなら、それは確かに、かなりの衝撃だっただろう。
そう。つまり、失恋したと思っただろうから。それで、瀧か。
なのに、それが虚偽だと聞かされて、そりゃ、怒りたくもなるよな。
一気にいろいろ合点がいって、将之は大きく息を吸った。
確かに、成彬に『どうにか及第点』と言われるわけだ。好きだと分かっただけでもマシという程度で。全然『ちゃんと』自覚出来ていなかった。

晴明は向かい側に座っているが、間には酒器や膳があるので、将之はまず、それらを横に寄せた。
膝立ちになって、そのまま正面の晴明まで進む。
赤いままなのは自覚があるので、見上げて来る晴明の視線から隠れるように、抱きしめた。
「晴明、笑うだろうけど。接吻でこんなに赤くなったのは、初めてだ」
「・・・そうか」
ぎゅうっと抱きしめると、晴明も同じように抱きしめ返してくれる。
こうしていると、胸はドキドキしたままなのに、安心するから不思議だ。
顔の熱さも少し引いた気がする。
ほっとして力を抜いた将之に、晴明も腕の力を緩めた。
身体を起こして、笑いかける。
そのまま顔を近付けて、接吻けた。
最初はただ唇を合わせて、それから啄むように、何度も触れる。
緩く開かれた唇を喰んで、深く合わせる。
しばらく口内を舌で辿っていたら、晴明の手が後ろ頭に伸びて、固定された。
晴明の内にあった舌が押し戻されて、今度は晴明の舌と共に将之の中に入って来る。
「んっ、ぅ・・・ん」
自分の呼吸に合わせて息を継げなくなったので、鼻から吐息と一緒に声が漏れた。
上顎をくすぐられて、思わず将之の身体が揺れたところで、互いの唇が離される。
顔を離すと晴明の頬も『ちゃんと』上気していて、将之は嬉しくなった。







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なんでこうなったのか、良く分からないのですが。
この将之さん、純情過ぎやしませんかね?(苦笑)
いちおう、成彬さんが感心したくらいには、経験あるハズなんですが。
次がラストです。


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七十五日の瓢箪と駒 拾参

七十五日の瓢箪と駒

笑顔というのは偉大なもので。
向けられるだけで安心する。
それが好きな相手の笑顔であれば、効果は絶大で。
見ているだけで幸せな気分になれるから、ささくれ立っていた気持ちが徐々に凪いで、晴明に冷静さを取り戻させた。
そうか。一人で瀧に打たれても、効果がないはずだ。
想いを振り切ろうと思った行なのに、この笑顔が一番の特効薬だなんて、救いがなさ過ぎる。
晴明は、小さくため息を吐いた。
向かい側に座る将之が、笑顔を貼り付けたままで、緊張したのが伝わって来る。
言われた通りに笑顔を保っているが、もちろんそれが心からの笑顔でないことは分かる。
謝る代わりに笑えと言われて、そうしているに過ぎない。
それでも、晴明を冷静にするには充分な効果があるのだから、好きという感情は計り知れない。
晴明の心を覆う感情を、一枚一枚丁寧にゆっくりと剥がしてゆくと、最後に残るのは結局、将之を好きだという気持ちだ。
それと、このささくれだったものは嫉妬だ。
嫉妬から発生する怒りもあるが、それは将之に向けられたものではなくて、自分の間抜けさへの感情だ。
これはどうしたら消えるだろう?自分も将之に接吻けてもらえれば、なくなるのだろうか?
晴明はもう一度、今度は大きく息を吐いた。
その音に、小さく肩を揺らした将之を見ると、笑顔が引き攣りそうになっていて、晴明は微笑う。
今度は努力をしなくても、自然と笑えた。
その晴明の微笑を見て、将之の笑顔も自然になった。
安堵した柔らかい将之の笑みが、晴明をさらに落ち着かせる。
こうやって、笑顔はどんどん連鎖してゆくのだろう。

「ちょっと、落ち着いた」
晴明の言葉に、将之の笑みが深まる。
「うん。良かった」
「例え話をするぞ。多分、私は、将之から贈り物を貰ったようなものだと思う。中身は、将之が良いと思って選んだ物だ。将之にとっては、それは良い物に思えて、私に合うと思って選んでくれたのだと思う。でも、たまたま、今回貰った物は、私の好む物ではなかった。おそらく、そんな事だと思う」
将之は、晴明の話を黙って聞いている。
「誰でもそうだと思うが、贈り物されたら嬉しいだろう?相手が誰であれ嬉しいけれど、好きな相手から贈られたら、さらにもっと嬉しい。中身が何であれ、自分の好みでなくても、嫌いな物だって嬉しい。贈ってくれた、選んでくれた、自分の為に時間も財も、場合によっては権力や労力も費やして、してくれたその行動の行為と、厚情の厚意が嬉しい。例え嫌いな物でも、ワザとされた嫌がらせでないのなら、怒りはしないだろう?」
将之が頷く。
「だから、怒っていない。謝罪を拒否する意味で言ってるのではなくて、本当に怒っていない。それから、その行動と厚情も嬉しい。ただちょっと、中身が意外過ぎて、ビックリしてしまっただけだ」
「うん」
「将之は悪くない。噂に関して、おまえは最初から責任を感じていたようだけど、別に将之のせいじゃないし、そもそもおまえも被害者だろうに。今回は、たまたま時機が悪かったんだ。噂の顛末を事後報告で聞いただけなら、私だってそこまで驚かなかった。もともとどうでも良かったのだから。でも、偶然見てしまった。将之にとっても、仕掛けた成彬どのにとっても、予想外の事態だった。成彬どのが、もっと性格の悪そうな方なら、ワザと私に見せたのだろうと疑うところだが。どうもそうではないらしいし。それに、私は本来ならあの場にはいるはずのない立場なのだから、仕方ない」
「・・・うん」
「牛車の中で、将之は成彬どのに私を好きだと言って、友達だと言っていたな。その後、別の機会に成彬どのから、私が将之を好きだと言われたのだろう?おまえの好きとは意味が違うと、そう言われたのか?だからさっき『ちゃんと、好き』って言ったのか?」
「うん。俺は、晴明のこと、ちゃんと好きだよ。会えないと寂しい。怒ってたら悲しい。機嫌が悪いと泣きたい。笑ってると嬉しい。悪く言われるのは嫌だ。これって充分、ちゃんと好きだろう?」
にこりと笑う将之は、晴明の好きな屈託のない笑顔で。もうそれだけで、細かいことはどうでも良くなってしまうから困るのだ。







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とりあえず、ウチの将之さんは、笑顔で晴明サマを誑かしているようです。
いいなぁ。私も将之の笑顔で誑かされたい。
次回、ブログ掲載ギリギリラインになってしまいました(苦笑)。


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七十五日の瓢箪と駒 拾弐

七十五日の瓢箪と駒

晴明の微笑に、将之はほっと息を吐いた。
「それなら、いいが・・・。もっと、呆れられるかと思った」
「まあ、確かに、呆れてはいるな」
「う・・・やっぱり。そうだよなぁ。成彬が、晴明は俺のことを好きだと言ってたけど、あんな場面を見ても、嫌にはならないか?」
「そんなことでは、ならないさ。じゃあ将之は、私が誰かと接吻しているのを見たら、嫌いになるのか?」
「ならない。でも・・・すごく、困るかな」
「困る?」
「だって、次にどんな顔して会っていいのか、分からないじゃないか」
そう言ってから、気付いたように晴明を見た。
「晴明も?困ったのか?」
「そうだな。現在進行形で、困ってる」
「え、今もか?」
頷いて返す。
「いやでも、もう、この顔で会ってるし・・・」
えっと・・・と言って、しばし将之は落ち着かな気に視線を彷徨わせた。
「・・・そう言われると、俺も、困るんだが。どちらかというと、見ちまった側より見られた俺の方が、居たたまれないんじゃないか?」
「違うな、将之。見た見られたじゃなくて、騙したと騙された、だ。もしくは知っていると知らない。誰に見られるかは知らないにしても、みなを騙すつもりでいた将之と、知らずにまんまと騙された私では、受けた衝撃の度合いが違い過ぎるということだ」
思わず正直な気持ちが口から出てしまって、晴明はしまった、と焦る。
本音ではあるが、先ほどから謝り続けている将之にとっては、辛口過ぎる内容だろう。
ビクリ、と顔を上げた将之の表情が、一瞬歪んで、それから深く俯いてしまった。
小さく、ごめん、と聞こえる。
なんだか泣きそうに見えた表情に、晴明の焦りが増す。
将之を責めたい訳ではない。怒っていないのも本当だし、嬉しかったのも本当なのだ。
ただ、晴明の中で、まだその衝撃を、上手く処理しきれないだけで。
「・・・晴明。怒ってないと言われたら、許しを請うことも出来ないよ。謝る以外に、俺は何をしたら良い?どうしたら、おまえの機嫌を直せる?俺の自己満足で余計なことをした自覚はあるんだ。自分勝手をして好きな相手を不快にさせて、今すごく反省してるけど。俺、ちゃんと晴明のこと好きだよ?自覚したばかりで、まだいまいち違いが分からないけど。ちゃんと、好きだ」
こんなことで将之が泣くとは思っていないが、自分の感情も整理しきれない状態で、なんと言えばいいものか困る。
怒ってない、と言ったのは本当に怒ってないのであって、謝罪を拒絶するためではないのだ。

「ちょっと、待ってくれ。頭の中を整理する時間がほしい」
やっと、それだけ言う。
「分かった。じゃあ、今日はもう帰るよ」
顔を上げた将之は、もちろん泣いてはいないけれど、とても困った表情をしていて、それがとても傷ついているように見えて、晴明の胸に痛みを与えた。
「待て。ダメだ。そんな顔のおまえをこのまま帰したら、きっとまた周りが心配して、会えなくなる。せっかく会えたのだから、そこでそのまま待っていろ。何処へも行くな。寝ててもいいから、見える範囲に居てくれ」
将之は驚いたように目を丸くして、それから、ふわっと微笑った。
「うん。分かった。ここで待ってる」
将之の微笑に、
「あ」
胸の痛みがするっと溶けて、
「え?」
自分の簡単さに晴明は苦笑した。
「謝るんじゃなくて、そこで笑っていろ。少し分かった。真面目な顔をして、ビックリさせられたのがいけないんだ。悪戯に成功した子供みたいな顔で、にこにこしていろ。その方がおまえらしい」
「???」
急に言われて、将之はしばし変な顔をして固まってから、もう一度笑った。
「うん」
にこにことまではいかないが、笑顔のままの将之を見て、晴明は安心した。







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半ベソな将之さん(笑)。ごめん、思わずイジメちゃった。
そして、いちおう告白されてるのに、全然スルーな晴明サマ。
そろそろ終わって欲しいんだけどな。
とりあえず、全十五回の予定です。


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七十五日の瓢箪と駒 拾壱

七十五日の瓢箪と駒

「でも、意外だな・・・」
盃を傾けながら、ぽそりと晴明が言う。
「なにが?」
「おまえは、そんなふうに冗談やノリなどで、その手のことするのは嫌がるかと思ってた」
晴明は、自嘲とも苦笑ともつかな微笑を浮かべる。
「・・・言いたいことは、分かるが。冗談でもノリでもなかったからな。まあ、仕方ない」
将之も微苦笑だ。
「成彬の悪ふざけというよりは、俺にとっては任務の一部みたなものだったから。必要なことなら、嫌かどうかは関係ないさ。それに、俺が言い出して、成彬に無理矢理頼んでいることなのだから。協力してくれる成彬が、それが必要だと言って、自分は構わないと言ってくれてるのに。俺が嫌がるとか、本末顛倒だろう?」
そんなふうに、将之が自分のためにいろいろしてくれるのは嬉しい。大事にされていると思う。とてもありがたいことなのに。でも。
「本末顛倒か。そうだな。私はそうかもしれない。将之は顛倒を防いだのに、私は顛倒させてしまったようだ」
晴明がため息を吐く。好きな相手が自分のために、他人と接吻するなんて。しかもそれを見て、自分がどれだけ落ち込んだことか。
「・・・晴明?」
「将之は、本当に明快だな。それに、目標が定まったら真っ直ぐ一直線で、迅速だ。『人の噂も七十五日』と言うが、おまえが私の噂を知ってから、まだ一月だ。半数以下の日数で終息させてしまうなんて、物凄い人心掌握術だよ。おまえが本気を出したら、政争なんて起こさずに、たちまち一番上まで上り詰められそうだな」
「あのなぁ。俺は成彬に頼み込んだだけで。終息させるくらい上手く噂を操ったのは、成彬だぞ?」
「ああ。成彬どのも充分、人心掌握に長けている。いきなり始まって勝手に広がる噂を操るのは、並大抵の腕では出来ない。だが、どちらかというと成彬どのは、機を読む軍師の能力だ。おまえは違うよ、将之。人を読むまさに人心掌握力だ。軍の大将軍や皇帝といった、頂点に立つ者の将たる能力だ。優秀な軍師を意のままに動かす能力は、得難いよ。人心を操れる軍師に、協力しようと思わせる魅力がなければダメなのだ。成彬どのもご友人方も。おまえの魅力で動いているのだから。接吻けひとつでこの結果なら、充分過ぎる成果だろう?」
「・・・晴明、なんか、怒ってるのか?もしかして、山の行は俺のせいか?変な処を見ちまったから?」
ああ、本当に。思わぬ処で鋭い。おそらく直感なのだろうが、それも重要な将たる能力だ。
「怒ってはいない。どちらかというと落ち込んでいるかな。行は、まあ、間違ってはいない」
晴明の答えに、将之は眉をハの字に下げて、情けない表情になる。
「晴明からしたら、余計なお世話の上に、変なモノを見せられて、不快な気分になったってことだよな。悪かったよ・・・」
「怒っては、いないよ。ましておまえに対してなど。私のために骨を折ってくれた将之に、私には怒る理由がないさ」
「だって・・・機嫌が悪いじゃないか」
「だから、落ち込んでいる。秘め事のような場面を見て、大混乱して山にまで籠ったのに、それが仕掛けられたものだと知って、気が抜けた。だけど、理由を聞いたら、怒れない。いや、どちらかというと嬉しかった。私のために、将之がそこまでしてくれたことに」
言い切って、晴明は微笑んだ。将之を安心させるように、柔らかに。
嘘は言っていない。けれど、複雑な心中はまだ穏やかにはほど遠く、かなりの努力を要した。







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そういえば、以前にも一回、しばらく更新出来なくなるかも、とか書き込んだ翌日に更新したりしましたが、どうも天邪鬼なのか、それとも宣言することによって気が済んだのか、連載しない二日間で、どうにか書き上がってしまいました。
さて、ここからまた晴明サマが、またグルグルして参りました。
そりゃ、こーなるよねー。あはは。頑張れ将之。


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七十五日の瓢箪と駒 拾

七十五日の瓢箪と駒

不満顔から、また真剣な表情に戻って、将之が続ける。
「あと、それから・・・」
言い難そうに一度言葉を切って、
「『ご執心』の噂に信憑性を持たせるためにって、成彬との噂も流したんだ。それで、その・・・」
上目遣いに伺う将之に、平常心を保ちながら、晴明は無言で先を促した。
「成彬が、晴明に現場を見られたかもって・・・」
「現場?」
「宮中の中庭の。人目があるかもしれない場所で。わざと、成彬と、接吻した、んだ・・・」
言いながら、徐々に赤面してゆく将之に、晴明はしばし混乱した。

シゲアキとは、牛車の中で将之に忠告していた、あの友人だ。
あの時、半分眠っていた晴明は、確かに声は聞いたけれど、シゲアキの姿は見なかった。
けれど、途切れ途切れに聞こえて来た彼の意見は、至極真っ当だと晴明は思ったのだ。そんな友人が将之の傍にいることに、少し安心したりもした。
晴明には手出しの出来ない、もっと宮中の上流で、藤原に対する妬みや嫉みを基にした、悪い噂や悪意をいろいろ向けられるのであろう将之を、気に掛けてくれている男に思えたから。
それがあの、自分を睨み付けていた男で、しかも、あの中庭の、相手とは・・・。
いや、睨んでいたのは仕方ない。晴明が思った通り、将之を気付かってくれる男なら、悪い噂の相手である、晴明を面白くないと思っていただろうから。
でも、中庭のあれは・・・。
噂を流すため?本当に?

「わざとって、噂のために・・・?」
「うん。『左少将がご執心』ってするには『左少将は男好き』って噂も一緒に流れた方が良いって言うから。成彬は、俺をいろんな意味で好きだから、晴明との噂のために協力するなら、そのくらいの役得は。とか言ってたけど、絶対揶揄われたんだと思う」
いや違う。それは絶対、役得という気持ちが正しいのであって、揶揄われたわけではないだろう、と晴明は確信出来る。
「ちょっと待て、将之。私は牛車の中で声を聞いたシゲアキどのと、渡殿から見えた中庭でおまえといた人物が、同一人物だと思っていなかった。見たのと聞いたのとでは印象がひどく違って、シゲアキどのがどんな人物なのか、見当がつかない」
「そうなのか?」
「最初、あの送ってもらった日、私に駆け寄って来た将之の後ろで、私を睨んでいた。その時は、自分達と話していたおまえが行ってしまったので、面白くないのだろうと思った。翌日、渡殿から中庭でおまえといるのが見えた。なんとなく眺めていたら、将之から接吻けたように見えて、驚いて帰って来たんだ。だから、おまえの恋人なのだろうと思った。恋人なら、噂のこともあるし、さぞかし自分のことは気に入らないだろうと思った。睨まれて当然だと。そう納得するのと同時に、将之は私を親友だと言ってくれるのに、恋人いる事を知らなかったのが、悔しかった。親友だからこそ、恋人が男なのを言い難かったのかもしれないとも思ったが。とにかく、私にとっては大混乱だった」
一気にしゃべった晴明を、将之が驚いて見る。
「逆に、牛車の中で声を聞いたシゲアキどのは、前にも言ったが、正しいことを言っていると思った。声も落ち着きがあって、大人の男だと思えた。将之を可愛がっているのも分かったし、だからこそ心配していることも伝わって来た。嫉妬のような感じは受けなかった。見た場面が悪かったのだろうが、見ると聞くでは私にとっての印象は大違いだ。将之にとっては、一体どういった方なのだ?」
晴明から成彬の印象を聞かされて、うーん、と将之が唸る。
「成彬が睨んでいたのは知らなかったけど。中庭のはわざとしたことだから。恋人じゃ無いし。晴明が見た印象のは、違うよ。聞いた印象の方が合ってる。成彬は在原氏で、今のところ俺と同じ左少将だけど、歳も位も俺より上だから、確かに落ち着いてるし、頭も良い。口が悪いけど、結構面倒見が良いからみなに好かれてる。女性にもモテるから、男友達に引っ張り回されてた俺と違って、あっちこっちの女房や姫君から、お誘いされてたらしい。あと、確かに目を掛けてもらってると思う。すぐ揶揄われるけど。すごく良いヤツだよ。同輩の友っていうより、頼れる兄貴分って感じかな」
「そうか。・・・恋人じゃないのか」
ほうけたように、晴明がため息を吐いた。
「ごめん。やっぱりもっと早く顔を見に来れば良かったな。見られてると思ってなかったから。噂を聞いただけなら笑い飛ばせても、見ちまったらそうはいかないもんなぁ。無駄なことで悩ませて、本当にすまなかったよ」
申し訳なさそうに苦笑して、もう一度将之が謝った。
「いや、それは、将之も大変だったのだし、そもそも私の噂を消そうとしてくれたのだから。こちらこそ、私のことでそんなに手間を掛けさせて、悪かったな」
「いいんだ。当の本人であるおまえは気にしないと言ったのに、俺が嫌で、勝手にやったんだから」
そう言って笑った将之に、晴明はいろいろな意味で安堵した。







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どうにか終わる目処がついて、連載再開です。
とりあえず、恋人疑惑が消えて、安堵の晴明サマ。
でも、今度はまた別のグルグルが発生しますよね、ええ。
将之さんも、いちおうミッションコンプリートなんだけど、当然グルグルに巻き込まれますね、はい。


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PixivのID

このサイトと管理人について

今日で9月が終わりです。
無事に9月のカレンダーを、全日紫の更新マークで埋めることが出来ました。
連載を一気にup出来なかったのが申し訳ないですが、8月末から連続35日間の更新でした。
自分としては、満足です(笑)。
10月は毎日とはいかなくても、連載の残りもありますので、ボチボチ更新していこうと思っています。

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さて、以前からぶつぶつ呟いているPixivですが、ニックネームとIDをお知らせしておきます。
今はまだ、ブログにupしてあるお話しかありません。
こちらの連載が終了したら、ブログに載せられないお話も増やして行く予定です。

ニックネーム:はるか@将之v王都
member ID:15853394

よろしくお願いします。


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片想いのお題

更新履歴と管理人の日常?

連載の終り部分が進まなくて、刺激が欲しくてPixivを読み回っていたりしたのですが、最近「ワンライ」という単語を初めて知りました。
意味を調べると、「One Write」(一時間で書き上げる)だそうで、ちょっと試してみたいな〜と思っています。

というのも、私は書くのがすごく遅くてですね(^_^;)
なのに、これだけ連日更新してるってことで、今どれだけ王都にハマっているかということが、自分でも分かってビックリなんですが。
まあ、普通に書いたら、下手すると1時間で10行くらいかもしれないレベルの遅さなのです。
勢いに乗ってる今だからこそ、試してみたい。
でも、さすがに何もネタがないところからはツライ。

で、お題とかテーマを与えてくれる、ランダムのお遊びbot?を巡っているのですが、なかなかビビッとくるのがないんですよねー。
ただ、面白いお題がいっぱいあるので、花占いに引き続きご紹介します。

今回は片想いのお題です。
名前を入れると結果が出るのですが、今回はカップリング名でも試してみました。
グループ分けしたのは私ですが、これだけでお話が浮かびそうですよね(笑)。
でも、長編になりそうな抉れ具合だから、ワンライは無理だな〜。

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[晴将の場合]
何を言っても生返事。実力行使も効果なし。そろそろアイディアも底をつく頃なのに、君の態度は一向に変わっていやしないのだから、こちらのアプローチは意味がないと突きつけられているも同然だった。

[晴明の場合]
本当の気持ちに気づかないでほしいから、今日も憎まれ口を叩いてしまう。それでも優しい君は、怒りもしないで許してしまう。もういっそ、嫌ってほしいよ。こんな我儘な自分なんか。

[将之の場合]
好きだと言うと、君は泣きそうな顔をした。だからごめん、嘘だよ。そう言って誤魔化した。泣きたいのはこっちの方だ。

[影連の場合]
いつか君に大事な人が出来た時は、大人しく君との幸せを願うから、せめてそれまでは隣にいさせて。

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[将晴の場合]
君のことを好きだと言ったことはないけれど、本当は気づいているのかもしれないな。知っていて知らないふりをしているのなら、意地が悪いね。知らなくても構わないけれど。

[安倍晴明の場合]
何も特別なことじゃないのに、君の言葉で自分の機嫌も直ってしまう。単純だとは思うけど、君に振り回されるのは嫌いじゃないから仕方ない。

[藤原将之の場合]
「忘れられない人がいる」そう告げた君の表情を、きっと忘れることは出来ないだろう。伝えたかったこの感情は、どうせ言えないならば、知らないままにしておきたかった。

[橘影連の場合]
別れが名残惜しいのはこちらだけだろうか。君も少しは同じこと、考えていたらいいのだけれど。

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[晴影の場合]
君には一生分からないだろう、こちらの気持ちは。だって、君は知ろうともせずに、自分の感情を押し付けてばかり。いつだって、そうだ。

[影将の場合]
理由など後からいくらでも付け足せる。自覚したのはずっと後でも、きっと初めて見た時から、君のことが好きだった。

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影晴と将影は、あまり面白くなかったので、省略しました。
影連は、影の漢字が良くないのか、全部片想いってことは同じなのに、ひたすら去る人前提ですね(苦笑)。


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七十五日の瓢箪と駒 九

七十五日の瓢箪と駒

噂もお誘いもようやく一息ついて、将之は一月振りくらいにやっと、晴明の館を訪れた。
出迎えた藤哉に、山の行から何日くらいで戻ったのか聞いてみた。
「えっと、確か五日くらいだったかと」
「その後は忙しくしてないのか?」
「はい。今は、根を詰めてるってことはないと思います」
「そりゃ良かった」
「でも、寝不足なのはあるかもしれません」
「そうなのか?」
話しているうちに、晴明のいる間へ着いた。
後は本人に直接聞けば良い。

「なんだか久しいな、将之」
そう言った晴明に、将之は苦笑した。
「ちょっと、いろいろ忙しくてな・・・」
「留守の間に顔を出してくれたそうだが。会えなくて悪かったな」
「そうだ。山で行って、瀧か?何か大変なことがあったのか?」
今度は晴明が苦笑する。
「いや、私自身の問題だよ。調伏とかは関係ない」
「そうか。じゃあ、俺には手伝えないんだよな?」
少し残念そうに言う将之に、『おまえが原因だ』とも言えず、晴明は苦笑を深めるしか出来ない。
「藤哉が、根は詰めてないけど、寝不足かもしれないって言ってた。おまえ、けっこうグダグダ考え込むからなあ。バッサリ解決したかったら、俺に話せよ?また寝不足でぶっ倒れたからって、そうそう運んでやらないぞ」
茶化して笑う将之の笑顔が、眩し過ぎて目に痛い。
多くは望まない、と心を決めたはずなのに、瀧の効果は得られなかったようだ。
苦笑を貼り付けたままの晴明に、将之が真面目な表情をする。
「おい、本当に大丈夫か?なんなら酔い潰してやろうか?」
「今はまだ、遠慮しておくよ。どうにもならなくなったら、付き合ってもらうさ」
「分かった。いつでも言えよ?」
いつもの三倍くらい、酒を持参してやるから。そう言って将之が笑う。
晴明もどうにか、微笑った。

「今日は、晴明に説明することがあって、来たんだ」
少し真剣な表情をして、将之が言うのへ、晴明は危機感を覚えた。
まさか、恋人の存在を明かされるのではないだろうかと。
「改まって、なんだ?」
思わず硬くなってしまった声で聞き返せば、
「この前の噂のことだ」
そう言われて、構えていた分、気が抜けた。
「ああ、私が左少将どのを誑かしてる、ってやつか」
いかにもどうでも良さげに言う晴明に、持参した酒を勧めながら、この一月にあったことを、将之は話した。
成彬に頼み込んで、「左少将がご執心で、陰陽師どのがお気の毒」という逆の意味になる新たな噂をわざと流したこと。
その結果、心配した友人達に連れ回されていたこと。
将之が晴明の悪い噂が嫌なように、みなも将之の悪い噂は嫌なのだから、と言われたこと。
「晴明が、新しい噂を耳にして、困っていたら悪いと思って。説明しに来たかったのに、顔を出せなくて悪かったよ」
申し訳なさそうに言った将之に、晴明は今度こそ笑った。
「そんなこと大丈夫だ。新しい噂は今初めて聞いたし、その噂を聞いても、私は嫌な気分にはならない。私とおまえを比べたら、利用価値が高いのは当然将之の方だ。だから、位の低い陰陽師が左少将を『誑かした』と噂されても、仕方ない。それなのに『左少将が陰陽師にご執心』という噂が流れるということは、それだけ将之が私を気に入っているように、周りからは見えるということだろう?喜ぶことはあっても、嫌な気分にはならないよ。私はね。ただ、将之と同じ位のご友人方が、面白くないと思うのは分かるよ」
「『気に入ってる』って・・・。なんでみな、そんな言い方になるんだよ。俺は晴明のこと、ちゃんと『好き』だぞ。そういう噂にしようと思ったのに、結局は『左少将がご執心』でも、遊び相手みたいな言われ方をするのは納得いかない」
不満そうに盃を呷る将之に、晴明は苦笑するしかない。
身分が倍ほど違うのだ。通常の友情を育んでいると考える者の方が、稀だろう。でも将之はそう考えないからこそ、こうやって晴明を対等に扱ってくれているわけで。
「そこはもう、諦めろ。どうしたって、おまえが帝の覚えめでたい藤原の左少将さまであることには、違いないんだから」
肩をすくめて、晴明にはそう宥めるしかなかった。







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やっと、晴明サマと将之さんが再開です。
もうしばらく、二人でグルグルすると思います。
そのグダグダがまだ書き上がっていないです(苦笑)。
これ以降は、しばらく連載の更新が停滞します。


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七十五日の瓢箪と駒 八

七十五日の瓢箪と駒

さすがに、この事態は予想していなかった、と苦笑した成彬に、
「成彬も俺も、そうとう愛されてるよなあ」
将之が本当に幸せそうに、にっこりと笑う。
その表情を切り取って、自分で見ることが出来たならば、きっと将之だって納得するだろうに。そう成彬は思う。
「おまえのその間抜け面を見たら、みな放って置けないのだろうよ」
「なんで俺だけ。成彬は間抜け面じゃないのかよ」
口調こそ拗ねて見せるが、にこにこな笑顔はそのままで。
成彬は気掛かりだったことを口にした。
「やっぱり晴明どのには、全然会えていないのか?」
「うん。成彬に送ってもらったあれ以来、結局一度も。一回会いに行った時はたまたま留守で、その後はこの状態だから」
「私もおまえに会えなくて、なかなか伝えられなかったんだが・・・。もしかしたら、晴明どのに見られたかもしれない。中庭の」
「え?・・・ええぇっ!」
赤くなって困り顔の将之に、少し妬ける気がした。
実際のあの時は、意外と平然としていたくせに。
鈍いにも程があるんじゃないか?
「晴明どのの噂を将之が私と消して、将之と私の噂をみなが消してくれて。これで、一周回って元に戻ったわけだ。これからどうするかは、おまえ次第だぞ、将之。誑かされるにしろ、執心するにしろ、忘れるな。おまえが晴明どのを悪く言われるのが嫌なように、みなも私も、おまえが悪く言われるのは嫌なのだ」
「・・・分かった。今回のことは、成彬にもみなにも、すごく感謝している。本当に、ありがたいと思ってる」
「とりあえずは、晴明どのの誤解を解いてやらねば。さすがに気の毒だな」
「うん」
「だが、覚悟が出来ぬなら近付くなよ、将之。晴明どのは、おまえを好きだろう。それをおまえがどうするのか、心を決めてから会いに行け」
「・・・俺だって、晴明が好きだよ」
答えた将之に、成彬は追い打ちをかける。
「それは、晴明どのと同じ『好き』か?おまえはちゃんと自覚しているのか?」
「・・・多分。ここの処、みなが誘ってくれて、忙しかったけど、すごく楽しかった。もちろん嬉しかった。でも、晴明に逢えないのは、ちょっと寂しかった。・・・それだけじゃ、ダメかな?」
そう言って苦笑した将之に、成彬はひとます安堵の息を吐いた。
「まあ、どうにか及第点だな。おまえがちゃんと自覚して、自分の意思でしていることなら、別に誑かされようが、執心しようが、どっちだっていいんだ。将之らしさが損なわれないなら、おまえがそれで幸せなら。別に邪魔をしたりはしないよ。みなだってね」
「・・・うん」
「もちろん、応援もしないがね」
「別にいらない」
言い切る将之に、成彬は笑う。
「自覚した途端に強気だな。まあ、おまえらしいといえばそうか」
「そのくらい、自分でどうにかするさ」
真っ直ぐな将之の瞳が、目標を定めたように強く光っている。
成彬からは、多少掛け違っているように見えていた猪の突進先が、正しく定められたようだった。







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うーん。多少は、将之さんが情熱的になったかな?
消極的というよりは、充分好きなのに、方向性に気付いていない将之さんかな。
あと、いつでもいい、というか、傍に居られるならなんでも良い、と思ってる晴明サマ。
成彬さんはどれもあり。まさしく平安貴族っぽく、同時進行可能な感じ。そして自覚ありのバイ。
将之のことは、とにかく気に入っている。可愛い弟や後輩でもあり、友人でもあり。恋人でもいいんだけど、将之が無理だろーなーと思ってたので、ちょっと悔しい(笑)。


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七十五日の瓢箪と駒 七

七十五日の瓢箪と駒

成彬に頼みごとをした翌日。
さすがに、出仕の際は少し気まずかったが、成彬が全く普段通りだったので、将之は揶揄われたのだと理解した。
それはそれで、晴明にしろ成彬にしろ、人で遊んでくれるよな、と不満な気はするが。
そこから数日。
寝不足になるくらい仕事をしていた晴明が、そろそろカタをつけたころだろうと見計らって訪ねてみると、出迎えた藤哉に、行で山に籠もっている、と告げられた。
まだカタがつかないのかと尋ねると、寝不足の原因は全て解決したと言う。
では新しい依頼かと聞くと、それもないとのことだった。
仕方がないので、持参した酒と肴のうち晴明の分の肴を、代わりに食べておけ、と藤哉に渡して帰って来た。
山で行って、瀧に打たれるあれだよな?
龍神を降ろした時みたいに、何か大変なんじゃないのか?
心配に思うが、置いて行かれたのならばどうしようもない。
将之では役に立たないということだ。
まあ、連れて行かれて、もしもの時は殺せ、と言われるよりは、遥かにマシだろう。

そうこうして十日も経たないうちに、親しい友人達から、将之は遠慮がちな心配をされるようになった。
それとなく、晴明の事を聞かれる。それから、勤務中以外では成彬と顔を合わせぬように、さりげなく配慮されている。
将之は、噂に疎い常の自分を心掛けつつ、改めて成彬の優秀さに舌を巻いた。
そして、友人達の心遣いに感謝する。
だが、そこからが大変だった。ほぼ連日のように、誰か彼かから、何かしらに誘われる。
親しい友人達だからこそ、心得たもので、将之を管絃や詩吟に誘う者は居ない。狩猟に遠駆け、気の置けない仲間との、堅苦しくない食事や飲み会。
どれも将之には純粋に嬉しかったし、常の自分を心掛けたなら、断るのはおかしかった。
そんなこんなで忙しくしているうちに、晴明には会えぬまま、一月近く経っていた。

最近やっと、どうにか左近衛府以外で顔を合わせることが出来た成彬が言うには、どうやら噂が少し効き過ぎたらしい。
「晴明に誑かされている」という噂を相手にしていなかった友人達も、「将之がご執心」に変化すると、不快感を表した。さらに「成彬とも〜」の噂に至っては、悪意の汚名で政争か?と黒幕を疑い始めた。
が、なにしろ本人達が黒幕なのだから、敵を見定めることも出来ない。
そこで次に打った手が、将之を忙しくするという現在のこの行動だ。
将之からは、晴明と成彬に会う時間を、成彬からも将之を会う時間を、新たな噂を生む温床を奪ってしまえとばかりに。
特に、みなで相談して連携しているわけではないようだったが、あれよあれよと言う間に、将之の予定はびっしり埋まってしまった。
ちなみに成彬は、懇意にしているあちらの姫君やら、こちらの女房やらに誘われて、そちらはそちらで忙しかったらしい。
将之と成彬の友人達となれば、みなそれなりの貴族である。
これまでだって、成彬のお相手本人が、友人達の姉妹や従姉妹の場合もあったし、姉妹や従姉妹に仕える女房の場合もあった。
そんな伝手を辿って一斉に文やお誘いを依頼すれば、成彬だっていくつ身体があっても足りない状態になるのだ。







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おおまかな内容は簡潔版とだいたい同じです。
晴明サマと成彬のパートが追加されてる感じです。
毎日更新はしていましたが、実はここしばらくバタバタしてまして、結局書き上がっていません。
あと2回くらい更新したら、一次停滞すると思われます。
一気に連載出来なくて、スミマセン(^_^;)


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七十五日の瓢箪と駒 六

七十五日の瓢箪と駒

昨夜ゆっくりと寝てすっきりした頭で、今日も晴明は参内していた。
本来ならば宮中に参内出来ない身分の晴明が、それなりの頻度で内裏に出入りしているのは、怪異が苦手な帝からのお召しであることが多い。その場合のほとんどは、陰陽頭を勤める師匠の忠行と同行する。
稀に、昭陽舎の女御で帝の寵姫である彩子に呼ばれたり、都の治安に関わる事態であれば、左右の近衛府から依頼されることもある。その場合は、彩子の弟であり左近衛府少将の将之と同行することが多い。
ここ数日は、忠行の供であった。

渡殿から、ふと中庭を見ると将之がいた。傍には友人だろうか。将之と同じ濃色の上着を纏っている。
宮中に参内する際には、決められた装いがあり、着ている上着の色や形で身分が分かる。
一人では参内さえ出来ない晴明はもとより、陰陽寮の長官である忠行よりも、将之は上の位にある。
昨日も将之が同色の集団といるところを見かけたが、その身分の高さであれば、やはり左近衛府の同僚か貴族の友人というところだろう。
それなりに離れた場所なので、知っている人物でなければいまいち顔の判別は付かない。ただ、なんとなく見覚えがある気がしてよく見ると、傍らの人物は、ちょうど昨日も見た顔であった。晴明に駆け寄った将之の後ろから、晴明を睨んでいた友人である。
昨日は、自分達と話していた将之が、私の処へ行ってしまったから睨まれたのかと思ったが。あんな噂があるなら仕方ないことだ。
将之が晴明のために怒ってくれたように、将之の友人達からしたら、自分の存在は全く面白くないに違いない。
なんともなしに眺めていたら、将之がその友人に接吻けをした・・・ように、晴明には見えた。
息が止まるほどビックリして、慌ててその場を立ち去る。
心の臓がばくばくと破裂しそうに打ち鳴り止まず、苦しい。

自分の館に着いて、ようやく晴明は一息吐いた。
何処をどうやって帰って来たかはいまいち良く覚えていないが、ひとまず師匠や回りの公達に失礼はしなかっただろう。きちんと挨拶をして帰って来たはずだ。
参内用の上着を脱いで、室内着に着替える。
自分では平静にしているつもりなのに、目の前に見える見慣れた光景が、まるで遠くの事のようにふわふわして感じられる。
こんなに時間が経っているのに、心の臓の緊張感は取れない。
香を焚いて、深呼吸をくり返す。
こんなところを鬼にでも襲われたら、ひとたまりも無いな。
そんな風に思考を逸らしてみたが、効果はなかった。

自分が、将之のあんな場面を見て、こんなに動揺するとは思わなかった。
いや、そんなことはない。充分知っていたはずだ。
好きなのだから、当たり前なのだ。
ただ、好きの種類が、将之が晴明に向けるものとは少し違うだけで。
だから、知らない振りをしていただけで。
晴明の好きは、動揺して良い好きなのだから。
将之は、あの男が好きなのだろうか。いや、好きなのだろう。
でなければ、あの将之が、あんなことをしないはずだ。
晴明が将之を想うのと同じ好きで、きっと将之はあの男が好きなのだ。
知らなかった。そもそも、そんな存在がいる事を。
ああ、だから。昨日、あの男に睨まれたのか。
自分達と話していたのに、将之が私の処へ行ってしまったから。
その後も私が送ってもらったのだから、昨日はあそこで分かれたことになる。
しかも、あの噂。
将之から好かれているあの男にしたら、全く面白くないに違いない。
では、今日のあれは、埋め合わせのご機嫌取りだったのかもしれないな。

ああ。それでは、昨日のあれはまずかったかもしれない。
あの声のひっくり返りようは、将之が自分を全くそう想ってないと、白状されているようなものだ。
友人の多い将之が、私を親友という特別な位置に置いてくれているから、なんだか勘違いをしてしまいそうになる。
将之の近くに、私が居られる場所があるなら、それで良いのだ。
その関係の名前が何で、どんな場所であれ。
将之が「親友」と名前を付けて、用意してくれた場所であるなら、それだけで充分なのに。
実際には、遠過ぎて顔が良く見えなくても。周りからは、みすぼらしい汚い小屋に見えても。座っているムシロが、針で出来ていても。
身分の違いは知っている。将之本人が気にしないから、こんなに近付いてしまっただけだ。
将之という太陽の、光が届く場所であれば、それでいい。
その陽があたる場所であれば。







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将之さんはグルグルとグダグダしているのは似合いませんが、晴明サマはグルグル、グダグダしてるの似合いますよね(苦笑)。
原作は、晴明サマが主人公だけど、はるかの頭の中は将之さんを中心に回っているので、そこでは、やっぱり晴明サマは異端だと思うのです。


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七十五日の瓢箪と駒 伍

七十五日の瓢箪と駒

翌日、出仕した将之は、勤務後に成彬を誘った。
「成彬。昨日はありがとう。続けてで悪いんだが、頼みがあるんだ」
左近衛府を出て、中庭の人気のない場所まで引っ張って行く。
「どうした?将之。頼みとはなんだ?」
「噂を流して欲しい。昨日聞いたのと逆の」
「逆?」
「うん。晴明が左少将を誑かしているんじゃなくて、俺が執心しているのだと。強く逆らえない陰陽師どのが気の毒だ、といった感じに」
将之にとっては、そちらの方がまだ真実に近い。晴明に誑かされて、自分の「少将」や「藤原」の部分を、利用された事などないのだから。
どちらかと言えば、将之が晴明を気に入って纏わり付いて、怨霊退治とかに付いて行ってるのに。
「おい、将之」
驚いて成彬が将之を見る。
「俺に今まで決まった相手がいなかったのも、昨日公然でお持ち帰りしたのも、おまえなら上手く使って流せるだろう?」
「そんなことをして、どうするつもりだ」
「そんなの、ただの自己満足だ。逆なら俺は嫌な気分にならない。俺が勝手に晴明を好きなことには、違いないからな」
「大事な友を貶める噂を聞いて、おまえが気分を害したのなら。私にとって大事な友である将之の、悪い噂を自ら流す私には、何の得があるんだい?」
少し怒ったように、成彬が言う。
「成彬。ありがとう。でも、ごめん。俺の我儘を聞いてもらえないだろうか」
将之の真摯な頼みに、成彬はため息を吐いた。
「余計なことを、教えなければ良かった・・・」
「俺は、教えてもらって良かった。成彬が言ったように、勝手に言われてるだけじゃなく、自分で対策を考えられる」
「分かった。私が知らせたのだ。おまえに協力しよう。ただ、ひとつ条件がある」
「条件?俺に出来ることなら、なんでも」
「おまえじゃなきゃダメなことだ。・・・いいか、その噂は、おまえが男好きだってことになるんだ」
「うん」
「しかも、男相手には、強引だってことになる」
「うん」
「だったら、今ここで、私に強引に接吻をしてみせろ」
「えぇっ?!」
目を見開いて驚く将之に、成彬は苦笑した。
「驚いている場合か。ここは人気がないが、それでも誰の目があるか分からない。噂になるにはちょうどいいだろう?」
「でも、それじゃあ・・・。今度は成彬に迷惑がかかるじゃないか」
困った顔をする将之を、成彬は好ましいと思う。自分もちゃんと、大切にされている。
「大丈夫だ。私の女性に対する浮名は、たった一回の男との噂くらいで、消し飛ぶ程度のものじゃないさ」
「・・・成彬は、俺とそんなの。嫌じゃないのか?」
「嫌なら言い出さぬよ。幸い、おまえは私より上背もあるし体格も良い。ほら、この木の幹にでも、強引に押し付ける感じで、やってみろ」
将之は、木と成彬を見比べて戸惑っている。
「私はおまえが好きだよ、将之。いろんな意味で。そのおまえと、晴明どのの間を取り持つような、協力をするのだから。そのくらいの役得があってもいいだろう?」
笑っている成彬の、それでもふざけているわけではない真摯な瞳を見て、逡巡していた将之は腹を決めた。
「・・・分かった」
真剣な表情をして、そう答える。
言われた通り、少し乱暴に成彬を抱きしめて、背後の木に身体を抑え付ける。
顎をつかんで噛み付くように接吻ける。
思っていたよりも様になっている接吻に、弟の成長を喜ぶ気持ちにも似て、成彬は薄く笑んだ。

中庭の、人気のない場所。茂みに囲まれたここは、近くには確かに人がいなくて密談にはいいが、外から姿が全く見えないわけではない。
少し高い場所からなら、なんなく見えるだろう。
将之は建物を背にしていて気付かないだろうが、薄っすらと目を開いた成彬からは、将之の肩越しに渡殿の一部が見える。
先ほどから、たまに人が通るようだ。噂の目撃者となる人物を見極めようと、目を細めた成彬に、去り行く銀糸が見えた気がした。







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はい。やっと、違う内容になりました。
次回は晴明さんのグルグルです。


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七十五日の瓢箪と駒 四

七十五日の瓢箪と駒

銀が着いて、将之は帰った。
自分の屋敷に戻ってからも、将之にしては珍しく、グダグタと考え込んでしまう。
自分は晴明が好きだ。それは間違いない。だからこそ、晴明が悪く言われるのは気に入らない。でも、だからといって、噂を無くすために、晴明と距離を置くのは嫌だ。いや、間違っていると思う。いやいや、そんなことは、ただ単に自分がしたくないのだ。
グルグル、ぐるぐる。思考が何周か回って、真正面に戻って来た。
よし、もういいや。
瓢箪から駒。嘘から出た真。
そのまま、その通りにしてやろうじゃないか。
思い立ったが吉日。猪突猛進。
こうなったら、成彬も巻き込んでやる。

成彬は将之よりも歳上で、今の役職こそ同じ左近衛府の少将だが、位は将之よりも一つ高い。本来ならば同輩の友ではなく、先輩にあたる。
それに、近い内にもう一つ位が上がって、役職もそれに相応しい中将となる事が決まったそうだ。この前、未公表だが、と前置きをして、こっそり教えてくれた。
そうすると上司になるわけだが、将之にとっては、なんとなく兄のような存在である。成彬も将之を可愛がってくれていると思う。
内定を聞いて「昇進おめでとうございます。さすがにもう、中将さまを呼び捨てにするわけにはいきませんね。成彬どの」と返した将之に、「勤務中は仕方ない。でも、仕事を離れた場所でその呼び方をしてみろ。締めるぞ」と笑っていた。
そんな成彬だからこそ、今日の話は将之にはけっこう堪えた。
上司になっても普段は呼び捨てで構わないと思っている成彬から見ても、将之と晴明の関係は、歪な危機感があるのかと。

成彬は口が悪いと有名だが、それでも同僚からの人望は厚いし、女性からもモテる。
将之は、素直な気持を思わず正直にぽろりと口にしてしまって、怒られたり逆に喜ばれたりすることがあるけれど、成彬は正直な気持ちに機知を織り交ぜて、人を楽しませるのが上手い。
たまに、素直過ぎて失言ぎりぎりだったり、正直過ぎて逆に嫌味に聞こえてしまうような将之の発言を、危なげなく引き取ってくれて、上手に混ぜっ返して相手も場も和ませてくれる。
それだけ頭が切れれば、文官でも充分にやっていけると思うのだが、本人は将之と同じく、身体を動かしている方が性に合うと言う。
そんな思考が将之には親しみやすかった。

将之には異母兄が三人いるが、一番歳の近い光弘とは関係が悪く、かといってその上の二人の兄は同母姉の彩子よりも更に歳上で、いまいち会話も合わず、親密さを増すのが難しかった。
父にしろ三人の兄にしろ、武官である将之とは違って、文官であることも関係するのかもしれない。
ちなみに、晴明よりもずっと前に彩子にはもう紹介済で、成彬もやはり彩子のお眼鏡に叶う人物である。
そんな感じだったから、以前、光弘との確執が表面化した際には、成彬が本物の兄だったら良かったのに、と思ったものだった。







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今回も内容は同じです。
ここまでが、捧げたお話とほぼ同じ内容で、次から変わります。
大まかなお話の流れは同じですが、さらに成彬さんが出張ります。


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七十五日の瓢箪と駒 参

七十五日の瓢箪と駒

晴明の館の前で、成彬とは別れた。
将之に担がれた晴明を見て、藤哉が慌てて出て来たが、寝ているだけだと安心させる。
床の用意をする藤哉の横で、晴明の上着を脱がせながら、寝不足の原因を聞いてみた。
「ここのところ受けた依頼が、どれも大変みたいなんです。遅くまで呪法や祈祷をされて、その後は書を読まれて調べ事をされて。その合間に出仕されてるような感じで・・・」
「そっか。根を詰め過ぎなんだろうな」
「はい」
整えた床に横たえて、脱がせた袿を掛けてやる。
大内裏から牛車で移動して、さらに床に入れても全く起きる気配を見せない晴明に、将之は苦笑した。
「この様子じゃ、朝まで起きないだろうな」
「そうですね」
「ここに、銀が届く手筈になってるんだ。着いたら帰るよ」
「はい。ありがとうございました」
藤哉はそう言って退出した。

残された将之は、晴明のいつもより白く見える顔を眺めながら、先程の噂について思案する。
大切な友だと思っている晴明が、あんな風に自分のせいで、下世話な噂の的にされるのは嫌だ。将之を間抜けと揶揄するならともかく、晴明が誑かしているなどと、悪く言われるのは我慢ならない。
だからといって、自分は今のこの、変に気を遣わなくて良い、気安い関係が気に入っているのだ。今更、身分相応な対応に戻すのも嫌だ。
・・・つまり自分は、我儘なんだな。そう思って、ため息が出た。
そんなに大きなため息を吐いたつもりはなかったが、晴明の目がぱちりと開いて、朝まで起きないと思っていた将之は、驚いて息を飲む。
「・・・将之?」
呼ばれて、
「ああ」
どうにか返事をする。
「私は、別に気にしない」
急に言われて、思考が追い付かない。
「晴明?」
「シゲアキどのの言うことは正しいよ」
「おまえっ、聞いてたのか?」
「なんとなく。途切れ途切れに聞こえてた」
「・・・すまん」
「別に、将之が悪いわけではないさ」
「だけど!俺が、嫌だ」
「将之の、そういうところが、私は好きだよ」
「晴明・・・。俺だって、晴明のことは好きだ。だからこそ、悪く言われるのは悔しい」
「噂など、どうでもいい。別に今更・・・減るもんじゃないし」
自嘲するように嗤う晴明に、将之はたまらなくなる。
「晴明!なんでそんな・・・」
「だから、シゲアキどのは正しい。師匠との噂も、当時聞いたことがある。意味は分かったが、特に何も思わなかった。私は、自分の容姿を、ちゃんと自覚しているよ。見目麗しくて、嫉妬をかうと。鬼面を付けるほどではないがね」
茶化すように言って、晴明が微笑う。つられたように、将之も苦笑した。
「・・・そういうことを、自分で言うなよ」
「将之こそ、身分は勿論、自分の見た目がそう悪くないことを、もう少し自覚した方がいいんじゃないか?ただでさえ鈍感なのに」
はぁ、と将之が呆れた息を吐く。
「よく言うよ」
晴明の手が伸びて、将之の袖をつかむ。
「私は別に、噂が本当になっても構わない」
将之の目を真っ直ぐに見て、真剣な瞳で晴明が告げる。
「せっい、めいっ!?」
面白いくらいひっくり返った将之の声に、
「ぷはっ」
晴明は吹き出した。
「おーまーえーはー!!」
揶揄われたと思った将之が、思い切り晴明の手を払う。
払い落とされた晴明の白い手が、勢い良く床板に当たって、思いの外大きな音を立てた。
「ーっ」
払い退けられた手よりも、その拒絶に胸が痛んで、思わず息を飲む。
「あ、悪い」
手が痛いと思った将之が、拾い上げるように掌をつかんで、床板に当たった甲を撫でた。
つかまれた部分も、撫でられた部分も。
将之の体温が熱くて、その熱に痛みが溶ける気がした。







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内容的にはほぼ相違ありませんが、ラストの十行くらいが違います。
次回も内容はほぼ同じです。その次から変わります。


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七十五日の瓢箪と駒 弐

七十五日の瓢箪と駒

牛車に着くと、将之はひとまず晴明を乗せた。
「ありがとう、成彬。俺も乗って大丈夫か?」
「ちょっと狭いが大丈夫だ」
晴明の隣に座った将之の後に、成彬が向かい側へ乗って、牛車が動き出す。
「晴明の館は一条戻橋だ。あ、あと、使いに一人貸してくれ。銀が厩舎にいるんだ」
「分かった。晴明どのの館に届けるよう、おまえの従者に伝えればいいな?」
「うん。手数をかける」
将之は熟睡している晴明を自分に寄り掛からせると、身体を固定するように抱え込んだ。その様子を見て成彬が苦笑する。
「まるで姫君の扱いだな」
「そうか?こうした方が寝やすいだろう?」
「陰陽師嫌いは返上か?それともその面が気に入ったのか?見た目だけなら綺麗な男だ。遊びの相手としては、そのくらい下位の方が都合は良かろうな」
「おいおい。相変わらず口が悪いな。陰陽師は嫌いだし、俺は晴明が好きなだけだよ。顔より性格。今度成彬も話してみればいい。晴明も性格悪いから、おまえとは楽しく言い合えるんじゃないか?それに、遊びの相手じゃなくて、友達だ」
「将之は、相変わらずのん気だな。言い合う能力があったとて、陰陽師ごときが、この私にそうそう言い返せるものではないよ」
思わぬ成彬の正論に、将之は返答出来ずに苦笑する。本来なら、陰陽師が左近衛府の少将を呼び捨てにすること自体、咎められるだろう。
「それに最近では、おまえに決まった相手がいないのは、その男に誑かされているからだ、と噂する輩もいるくらいだ」
「はぁ?なんだよそれ。面倒くさいなぁ」
げんなりする将之に、成彬が微笑う。
「安心しろ。少なからずおまえを知ってる奴は、誰もそんな噂信じていないから。だがな、さっきの『陰陽師の仕事は夜が多い』なんてのは、今後は口にするなよ。噂に尾ひれを付けるだけだ」
「分かった。でも、信じてないなら、余計に口が悪いぞ、成彬」
「私はこの口の悪さで売ってるんだ。いちいち気にするな。ちゃんと噂も否定しておいてやった」
「え?なんて?」
「男に誑かされる脳ミソがあるなら、とっくの昔に悪い女に引っ掛かってるってな」
「・・・あ、そ」
ため息を吐いて、拗ねる将之を、成彬は楽しそうに見る。
「ゆっくりと話すのは久し振りだな。今度また、遊びに来い。たまには一緒に飲もう」
「うん」
素直に頷いて、それから将之は、ちょっと困ったように成彬を見た。
「さっきの、まさか晴明の耳には入ってないよな?」
「さあ?でもまあ、大丈夫じゃないか?こんな面をしていて、しかも都一と言われるだけの腕があれば、昔から色々とやっかみの噂をされるのに慣れているだろう?例えば初冠前くらいなら、師匠に特別に目を掛けてもらってるんだとか。口さがない噂など、いくらでもあるからな」
成彬の言葉に、将之の眉がハの字に下がる。
「将之は、本当にこの手の話に慣れないな」
「だって・・・」
「だって、とか、可愛らしく言うもんじゃないよ。そんなだから、噂されるんだ」
少し苛立ったように言った成彬に、将之は目を伏せた。
「・・・・・」
「ほら、もうすぐ着くぞ」
「・・・今日のこれも、マズかったかな」
沈んでしまった将之に、成彬はため息を吐いた。
「落ち込むな。知らないよりは、知ってる方が良いだろう?何かあった時に対策出来る。気にする必要はないが、自覚は持て。身分を超えて親しくなるということは、相手にも負担になるんだ」
「あぁ。そうだな。ありがとう、成彬。本当に口は悪いけど、おまえ良いヤツだよな」
にこりと笑った将之に、成彬も安心する。
「私をイイヤツと称するのは、将之くらいだよ」
到着を知らせる御者の声がして、ゆっくりと牛車が止まった。







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成彬さんは、最初は口が悪い同期で文官、当て馬もどきのちょい役のつもりで書いていたのですが、思ったよりも気に入ってしまって、立場も性格もパワーアップしてしまい、今後出張ります(苦笑)。
今回のお話も、内容に変更はありません。
次回はラストが少し変わります。


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七十五日の瓢箪と駒 壱

七十五日の瓢箪と駒

寝不足の頭で、フラフラと宮中を歩いていたら、将之に会った。
「あ、晴明」
自分を見つけて、笑顔で駆け寄って来る。
左近衛府の同僚か、親しい貴族の友人かは分からないが、遠目からもあきらかに身分の高そうな数名に囲まれて、楽しそうに談笑をしていたのに。
簡単にその輪から抜け出して、こちらに来た将之に、ただでさえ寝不足な晴明は、ちょっと眩暈がした。
ほら、おまえの後ろで、こちらを睨んでいる男がいるではないか。まだ話の途中だったのではないのか?
「どうした?」
額を抑える晴明に、目の前に立った将之は、首を傾げている。
「おまえ、寝不足だろう?」
目の下の隈を見て、将之が呆れたように言う。
「最近、ちょっとな」
苦笑してごまかす。
「フラフラしてるぞ?大丈夫か?」
「大丈・・・夫っ」
言いかけて、クラリと来た。
目の前にいる太陽は、今の晴明には少し眩しすぎたようだ。
「おいっ、晴明!」
支えた将之が、晴明をぎゅっと抱きしめる。
どうにか眩暈を振り切って、自力で立とうとした晴明を、将之がさらにぎゅうぅっと、抱きしめた。
力強い腕に拘束されて、思ってもいない気持ち良さにびっくりする。
「運んでやるから、このまま寝ろ」
言うが早いか、将之が晴明を担ぎ上げた。
「うわっ、将之!」
反射的に声を上げたものの、肩の上に担ぎ上げられ、上下が反転した晴明は、そのまま眠りに吸い込まれた。

「おーい!誰か牛車呼んでくれ」
さっきまで談笑していた仲間に、将之が声を上げる。
将之は銀で出仕しているので、牛車はない。
遠目に二人を見ていた仲間たちも、倒れそうになった晴明と、それを担いだ将之に、慌てて近寄って来る。
「晴明どのは大丈夫なのか?」
「ただの寝不足だ。陰陽師の仕事は夜が多いからな」
「確かに顔色が悪い」
「私の牛車で送ろう。どうせもう帰るところだ」
「すまんな」
「将之、そのまま歩くと晴明どのの髪を引き摺るぞ」
「え?」
確かに、将之の足元には、銀糸がとぐろを巻いている。
「困ったな」
「晴明どのの髪、触っても大丈夫なのか?」
「は?大丈夫だろ?」
「いや、この色は珍しいから。触って構わないなら、こよりで結ぼうか?」
おっかなびっくりな様子で、差し出されたこよりに、将之は苦笑した。
「俺は不器用だから、結んでもらえると助かる」
晴明を抱えたまま、将之は膝を曲げて、高さを落とした。
背後でごそごそ音がして、
「よし、できた」
声が上がる。
「ありがとう」
礼と共に立ち上がる。
「じゃあ、コレ送って行くから。また明日」
他の友人たちに声を掛けて、牛車の提供を申し出てくれた友に付いて歩く。

残された友人たちは、去って行く将之の後ろ姿を見ながら、苦笑する。
「晴明どのも、将之と同じくらい長身でけっこうな体躯なのに、軽く持ち上げるよなあ」
「さすが猪少将。足元、全然危なげないな」
「あれがどこぞの姫君だったら、将之にコロッといくのになあ。もったいない」
「まあ、見た目は、そこらの姫君に引けを取らないが」
「あの銀髪、初めて触っちゃったよ」
それぞれ思い思いに口にして、ひとしきり笑う。
磁石のように人を引き寄せる猪がいなくなったので、そのまま散会となった。







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ゆきんこさまに捧げたお話です。
無駄に長くなってしまったので、簡潔版で差し上げました。

なので、こちらでは完全版を連載します。
が、なんかもう、本当に無駄に長く、まだ書き上がっていないので、どうなることやら(^_^;)

今回のお話は、ゆきんこさまのところでは、1と2に分かれているのを、長さの関係でまとめました。
内容的には何も相違点はありません。


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明日からの更新迷い中〜

更新履歴と管理人の日常?

しまった。昨日の内に書き込もうと思ってて、寝ちゃった(^_^;)
というわけで、ちょっと時間操作。

火曜日の夜からまたお話を更新しようと思います。
とりあえず今のところ、候補が二つあって、どちらにしようか迷ってます。

一つは、三話くらいで終わる、妖退治という程でもない、日常っぽい将之さんが怪我するお話。

もう一つは、捧げ物の別バージョンのお話。こちらは長くなった上にまだ完成していないので、連載を始めることによって、自分にプレッシャーをかける的な感じです。おそらく十五話以内には終わるハズ・・・(汗)。

どっちがいいかな〜。


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連日更新したいなぁ

更新履歴と管理人の日常?

一ヶ月間毎日更新して、カレンダーを全日更新マークにするのが、密かな夢です(笑)。
本当は、今日からまたお話の連続更新をしたかったのですが、最後まで書き上がらなかったので、ちょっと断念(苦笑)。
書き上がるまで、もうしばらく掛かりそうです。

他にもいくつかお話はあるのですが、やっぱり最後まで書き上がってないものもあって。
あとは、ネタはいろいろ頂いたり、浮かんだりするのですが、書き始めるまでには至らなかったり。
とりあえず、刑事モノとか、爽やかスポーツエロとかは、チャレンジしたいけど。
ネタを頂ける場所があるって、とってもありがたいな〜と(^o^)/



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花占い?

王都と平安について

「共に・・・ 〜幕間〜」も無事に連載終了しました。
お付き合いありがとうございました。
「共に・・・」と併せて、当ブログの基本になるお話なので、無事にup出来て良かったです。
これからも、よろしくお願いします。

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先日、名前を入れると花占いの結果が出る、というのを試してみました。
王都のキャラ名で試したら、けっこう合ってる結果が出たので、載せておきます(笑)。

将之は【ガーベラ】花言葉:常に前進
童心を忘れない希望を持つ人。冒険心があり、新しいことにわくわくする。明るく親しみやすい。他人の色に染まらない。人に期待しすぎて傷つく面も。ダリアの人とは恋人関係。

晴明は【薔薇】花言葉:愛、美
魅力的な人。プライドが高い。嫉妬深く一途に愛す。口には出さない。仲のいい人には遠慮なくトゲのある。褒められるとすごく嬉しい。口には出さない。シクラメンの人とは友人関係。

影連は【椿】花言葉:誇り、控えめな優しさ
見た目に反して謙虚な人。人のためを考え、厳しくできる優しさがある。気取らない人。おしゃれ。悩むなら全て手放してしまう思い切った行動をすることも。金木犀の人とは気があう。



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共に・・・〜幕間〜 伍(終)

とにかく将之(親友/姉上/他)

「将之、またこちらにいらっしゃい。髪を整えましょう」
言われて将之が御簾を潜る。
帰るにしても、宮中を通るのだ。もう一度上着を着て冠を被り直し、ちゃんと衣冠姿に戻らねばならない。
櫛を手に立ち上がった彩子が、グラリとよろけた。
「姉上っ」
将之が腕を伸ばして抱き留める。
「あらら。ありがとう。足が痺れてしまったみたい。しばらくこのまま動けないわ」
「びっくりさせないでくださいよ。でも、俺のせいですね。スミマセン」
「いいのよ。私が無理矢理したんだから。それになんだか懐かしかったわ。そういえば主上もね、将之の寝顔を可愛いっておっしゃったのよ」
「か、かわいいって・・・」
彩子を抱き留めたまま、将之がガックリと肩を落とす。
「勘弁してくださいよ〜姉上。帝の前で寝こけてたってだけでも情け無いのに、寝顔を可愛いって!俺、どんだけダメな臣下ですか」
「あら大丈夫よ。主上は将之がけっこうお気に入りみたいですもの」
「それは、単に姉上の弟だからでしょう。お気遣い頂いて、申し訳ないくらいです」
ふふ、と彩子が笑う。
「足は動かないけど、手は大丈夫だから。とりあえず、御髪を直しましょうね」
高い位置で結わったままの将之の癖毛を、彩子が櫛で解く。そこまで乱れてはいないから、結い直さなくても構わなそうだ。

将之の耳許に口を寄せて、彩子が囁く。
「将之、まだ内緒の話よ。主上はね、こうおっしゃられたの。『私にとってもそのうち弟になるんだから、少将は可愛いよ』って。すごくさらりとおっしゃられたけど。これって・・・」
「姉上、おめでとうございます。それは、そういうことですよね?」
「でもまだ、未確定よ?」
そう念を押す彩子は、それでも嬉しそうな、少しはにかんだ表情をしていて。それは弟である将之から見ても、初々しい可愛いらしさを伴い、美しかった。
「分かっております」
将之はぎゅっと力を込めて、彩子を抱きしめた。
「今以上に、お幸せになられてください」
「ありがとう。おまえも早く、私を安心させて頂戴ね」
「・・・努力します」
「ほんとうよ?」
そう言って、ようやく痺れの取れた彩子が身を起こした。
将之に冠を被せ、脱がせた時と同じように手早く上着を着せる。

「父上に似て、見た目は悪くないのに。よっぽど日頃の行いがガサツなんでしょうねえ」
整えた姿を見ながら、彩子がしみじみと言う。
「暴走牛車をお一人で止めてしまわれるような、お勇ましい中宮さまに言われたくはありません」
将之も負けじと返して苦笑した。
「でもね、そんなところがいいんですって」
いたずらっぽい笑顔で、珍しく惚気を口にした彩子に、将之が目を丸くする。
「では、俺にもそう言ってくださる方が現れることを、祈っていてください」
「そうね。わかりました」
そう笑う彩子は、出来の悪い弟を、仕方ないなぁ、と思っているだろう、将之が良く目にする"姉"の優しい笑顔で。
「それでは姉上。また参ります」
「いつでもおいでなさい。気を付けてお帰りなさいね」
「はい」
姉に全幅の信頼を寄せる、"弟"の無邪気さ全開の笑顔を残して、将之は退出した。







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終わりました。お付き合いありがとうございます。

原作では、帝は「封神」「華炎」「夢語り夢紡ぎ」くらいしか出て来ないけど、それでも数回の出番で気に入るくらいには、良い人ですよね。
「将之について」にも書いたけど、やっぱりジェラシーを妬かせてしまいました。そして、ひっそりプロポーズ(笑)。
まあ、彩子サマに認められる殿方なわけだから、意外と大胆だったり計算高くても良いと思ってます。でも、普段は素でのほほん。それがいいのです。



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Author:はるか
復活愛です。創作活動は久々。
将之が大好きです。将之さん太陽説推進中。
ウン十年ぶりに読み返し、一気にハマり直してしまいました。
ブログを立ち上げてしまった勢いに、自分でもビックリです。
出戻り腐婆ですが、よろしくお願いします。
※R-18なお話は、↓Pixiv限定でupしています。
(ヒロアカの切爆切が混在してます)
Pixiv name:はるか@将之v切島v (ID:15853394)

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